医学の進歩によって、昔は良いとされていたことが現在では否定されている事が多々あります。

ちょっと前までは、母親が食物アレルギーの場合、授乳中は、アレルギー原因物質は食べない方が良いと言われていたため、食物アレルギーを持つ母親は、授乳中、一生懸命、原因物質を避ける生活をしていましたが、当時、医師に言われて一生懸命されていた方にとっては悲しいことに、現在では、あまり意味がないどころか、乳児の栄養バランス的によろしくない、と予防的な除去効果に関しては否定されています。

 転機は2008年、海外のアレルギー専門誌に掲載された論文(著者Lack)に、「乳幼児における食物アレルギーの発症は皮ふ暴露による結果であり、経口摂取は寛容誘導を惹起する」と発表されたこと。今では、乾燥肌や肌荒れによって皮膚バリアが壊され、そこからタンパク質が侵入することによってアレルギー発症につながる、とされており、とにかくスキンケアの重要性が叫ばれています。

 日本でも「食物アレルギー診療ガイドライン2016」に、予防的食物制限は「有効性に十分な根拠がなく、栄養上のリスクの方が大きい」との理由によって推奨されていません。

 母乳には母親が食べた食物のタンパク質が特殊な形(食品タンパク質IgA免疫複合体)で含まれていますが、近年のさまざまな動物実験などから、この特殊な形で存在する食物タンパク質(IgA免疫複合体)は、食物アレルギー予防の天然の飲むワクチンとして機能していると考えられるようになりました。

 母乳哺育(ほいく)が推奨される要因の一つに、腸管の役割との関係も指摘されています。

 母乳哺育の場合は、飲んだ母乳は腸管を通るわけですが、腸管では特殊な形をした食物タンパク質(1IgA免疫複合体)が効率よく体内に取り込まれ、腸管免疫系の熟成を促すなど、ポジティブな役割を果たすと考えられています。つまり、乳児の腸管で取り込まれた抗原(特殊な形をした食物タンパク質)が腸管免疫系を活性化することでアレルギーの予防になっているのではないか、と考えられているのです。

 近年ヨーロッパでは、「生後少なくとも5か月の母乳哺育は哺乳類としての人類の責務であり、社会全体でこれを支えていかなければならない」という考えた広まっているそうです!!

 日本の場合は、待機児童問題や保育園・幼稚園設立反対運動など、子育て環境が決して良いとは言えませんし、産休・育児休暇が安心して取れるのも大きな企業などに限られるなど、そもそも安心して出産・育児ができる環境ではありません。大きな企業ですら、妊娠したら配置転換・部署替えや、退職を迫られるなど、社会問題になっています。そのため、出産早々、まともに育児休暇を取らずに復帰せざる得ないなど、ヨーロッパのように「社会全体で母乳哺育を支えよう!」という動きは、まだまだ期待できないかもしれません。しかし、私たち人間も哺乳類なので、「なぜ哺乳類は哺乳するのか?」と生物学的な原点に立ち返り、本気で母乳哺育の重要性とアレルギーの増加の関係性を考える必要性があるようです。

参考文献:

廣瀬潤子他「母乳中に存在する食物タンパク質は食物アレルギーの原因となるか?」.アレルギーの臨床 Vol. 38(2) No. 510. 2018.北隆館